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DXの優先順位付け完全ガイド:看護現場も視野に入れた実践的手法

DXの優先順位付け完全ガイド:看護現場も視野に入れた実践的手法

公開日:2026年2月9日

企業のDX推進では、限られたリソースを最大限に活用するための優先順位付けが不可欠です。特に中堅・大企業の経営層や担当者は、効果的な投資配分や戦略連携に悩みます。看護分野など多様な業務領域を踏まえ、業務可視化からROI評価、実行可能性の分析までをカバーする具体的な優先順位付けの方法と段階的推進のポイントを解説。データ駆動でステークホルダーを巻き込み、着実にDX成果を上げるための行動指南を提供します。

 

 

目次

1.看護分野におけるDX優先順位のポイント

– 看護業務のデジタル化現状分析

– 看護職の業務負荷とDX課題

– 看護現場データ活用の可能性

2.DX優先順位付けの重要性と課題

– 限られたリソース配分の重要性

– 経営戦略との整合性確保

– 失敗要因と回避の留意点

3.業務可視化による課題抽出の方法

– プロセスマッピングの基本

– 現場ヒアリングの進め方

– デジタルツール活用事例

4.ROI(投資対効果)評価の実際

– 定量評価と定性評価のバランス

– KPI・KGI設定のポイント

– リターン予測の具体的手法

5.戦略的重要性と将来性の見極め方

– 短期成果と長期ビジョンの調和

– 事業目標との関連付け

– 競争優位性からの優先判断

6.実行可能性と組織受容性の分析

– 技術的な導入ハードルの評価

– 組織文化と従業員の受容レベル

– スモールスタートに適した領域

7.多角的評価フレームワークの活用

– 効果と容易性のマトリクス活用

– スコアリングモデル実施事例

– 相互依存関係の管理方法

8.ステークホルダー巻き込みと合意形成

– 部門横断的な推進体制づくり

– 現場から経営層までの調整

– コミュニケーションツールの活用

9.効果測定と継続的改善のプロセス

– KPI監視とフィードバックの活用

– アジャイル推進手法の導入

– 成功事例からの学びの共有

10.まとめ:DXの優先順位付けで確実に成果を出すための実践ポイント

1. 看護分野におけるDX優先順位のポイント

看護現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なる機器の導入ではなく、看護の質向上と労働環境の抜本的改善を目的とした「変革」です。優先順位を決定するためには、まず現状の正確な把握が必要です。

看護業務のデジタル化現状分析

現在の看護現場では、電子カルテの普及により情報のデジタル化は一定進んでいるものの、多くのプロセスが「紙の文化」や「属人的な運用」に依存しています。

  • 情報の断絶: 電子カルテに入力するために、一度メモ帳に手書きし、ナースステーションに戻ってから再入力するといった二重手間が発生しています。
  • バイタル測定の乖離: 測定機器とカルテが連動しておらず、数値の転記ミスや入力のタイムラグが課題となっています。
  • コミュニケーションの非効率: PHSによる音声通話が主であり、情報の視覚化や非同期的な共有(チャット等)が十分ではありません。

看護職の業務負荷とDX課題

看護職の離職理由の多くは、過重な業務負荷にあります。DXによって解決すべき課題は以下の3点に集約されます。

  1. 直接ケア時間の不足: 記録業務や移動、物品管理などの「付随的業務」に時間を奪われ、患者と向き合う時間が圧迫されています。
  2. 身体的・精神的ストレス: 夜勤帯の少人数体制におけるナースコール対応や、重症患者の見守りによる緊張感が負担となっています。
  3. 教育・スキルの継承: ベテランの経験知が形式知化されておらず、新人教育の効率が上がらない状況です。

看護現場データ活用の可能性

看護現場は「データの宝庫」です。これまで活用しきれなかったデータをDXによって可視化することで、以下のような可能性が広がります。

  • 予測看護の実現: 生体バイタルデータと活動量をAIで分析し、転倒・転落のリスクや急変の兆候を事前に察知する。
  • 人員配置の最適化: 患者の重症度やケア項目をリアルタイムで数値化し、看護必要度に応じた最適なスタッフ配置を動的に行う。
  • 看護の質評価: ケアの内容と患者のアウトカムを紐付けることで、エビデンスに基づいた看護(EBN)の実践を支援する。

2. DX優先順位付けの重要性と課題

医療機関において、予算や人材といったリソースは有限です。すべての課題を一度にデジタル化しようとすることは、現場の混乱を招き、プロジェクトの破綻に直結します。

限られたリソース配分の重要性

DXの優先順位を決定する際は、「緊急性」「効果性」「実現性」の3軸で評価する必要があります。

  • 人財の希少性: 現場の看護師は日常業務で手一杯です。新しいシステムを学び、定着させるための「現場の余力」を考慮し、最も負担軽減効果が高い領域にリソースを集中投下しなければなりません。
  • 予算の適正化: 高額なシステムを導入しても、現場で使われなければ損失となります。スモールステップで成功体験を積み重ねることが重要です。

経営戦略との整合性確保

看護部門のDXは、病院全体の経営戦略と合致していなければなりません。

  • 病床稼働率の向上: 入退院支援業務をデジタル化し、ベッドコントロールを円滑にすることで、経営指標に直接貢献します。
  • 看護師の定着率向上: 働き方改革としてのDXを推進し、採用・育成コストを低減させることは、重要な経営課題の解決に繋がります。

失敗要因と回避の留意点

看護DXの失敗の多くは、「現場不在のトップダウン」または「目的のないツール導入」にあります。

  • 現場の抵抗感: 操作性が悪く、かえって業務が増えるシステムは現場に拒絶されます。
  • 回避策: 導入前に「どの業務が、どれだけ楽になるか」を現場と合意し、ITリテラシーに配慮した教育体制を構築することが不可欠です。

3. 業務可視化による課題抽出の方法

「何が問題か」を主観ではなく客観的に捉えるために、プロセスマッピングを活用した業務の可視化を行います。DXの成功は、現場の「困りごと」をデータとして構造化できるかどうかにかかっています。

プロセスマッピングの基本

看護業務をフローチャート形式で詳細に書き出し、各工程にかかっている時間、発生しているリスク、情報の流れを可視化します。これにより、単なる「忙しさ」を具体的な「課題」へと分解します。

  • 無駄の発見: 「この確認作業は本当に必要か?」「ナースステーションと病室の移動距離が長すぎないか?」といった物理的・時間的なボトルネックを視覚的に特定します。
  • 標準化の検討: 担当者によって手順が異なるプロセスを抽出し、誰が担当しても一定の質を保てるよう、デジタル化による標準化の余地を検討します。
  • 情報の淀みの解消: 医師の指示から実施、記録に至るまで、どこで情報の滞留が起きているかを特定し、リアルタイムな情報共有の仕組みを設計します。

現場ヒアリングの進め方

電子カルテのログなどの数値データだけでは見えない、現場の「心理的負担」や「暗黙知」を丁寧に拾い上げます。

  • エスノグラフィー(行動観察): 言語化されない「ちょっとした不便」を見つけるため、分析者が実際に看護師の動きに同行(シャドーイング)し、無意識に行っている非効率な動作や割り込み業務を記録します。
  • グループインタビュー: 職種や経験年数の異なるメンバーを集め、多角的な視点から課題を議論します。若手の抱える操作上の不安と、ベテランが感じる看護の本質的な課題を統合することが重要です。
  • ジャーニーマップの作成: 看護師の一日の流れを時系列で追い、どの時間帯に最もストレスが集中するかを感情曲線と共に描き出し、重点的な介入ポイントを定めます。

デジタルツール活用事例

業務可視化によって導き出された具体的な解決策の例です。これらは「時間の創出」と「ミスの低減」に直結します。

  • スマートフォン活用: ナースコールの通知受信、バイタルデータの即時入力、写真による創傷部位の共有などを一台に集約。ナースステーションへの不要な戻り回数を大幅に削減します。
  • IoT物品管理: 消耗品の在庫をセンサーで自動検知し、発注業務を自動化。看護師が物品を探し回る時間や、手動での発注作業をゼロにし、直接ケアの時間を確保します。
  • AI音声入力: ケアの合間に音声で記録を吹き込むことで、業務終了後の長時間の入力作業を解消。リアルタイムな記録更新により、情報の鮮度と正確性を高めます。

4. ROI(投資対効果)評価の実際

DX導入を経営会議に諮る際、不可欠なのがROI(Return on Investment)の予測と評価です。医療・看護の文脈では、単なる収益性だけでなく、医療の安全担保やスタッフのウェルビーイングといった、金銭的リターン以外の価値をどう定義し、数値化するかがポイントになります。

定量評価と定性評価のバランス

  • 定量評価(硬性的効果):
    • 削減された残業代。
    • 記録業務にかかる時間の短縮(例:1人あたり1日30分の削減)。
    • インシデント発生件数の減少(ヒヤリハット報告のデータ活用によるリスク低減)。
  • 定性評価(軟性的効果):
    • 看護師の従業員満足度(ES)の向上による離職防止。
    • 患者へのベッドサイドケア時間の増加と、それに伴う患者満足度(CS)の向上。
    • 病院のブランドイメージ向上による採用力強化。

KPI・KGI設定のポイント

「導入して終わり」にしないために、事後評価を可能にする具体的な指標を設定します。これらは病院全体の経営目標(KGI)から、現場レベルで計測可能な行動指標(KPI)へとブレイクダウンさせる必要があります。

  • KGI(最終目標指標): 看護師離職率の5%低下、平均残業時間の20%削減。
  • KPI(重要業績評価指標): システム入力率100%、1人あたりの歩行距離30%削減(動線の最適化)、ナースコール応答時間の短縮。

リターン予測の具体的手法

投資額(初期導入費用+運用保守費用+研修コスト)に対し、期待される効果を算出します。

  • 時間換算: 「削減時間 × 平均時給」をコスト削減額として算出するのが最も一般的です。例えば、全看護師の合計削減時間が年間数千時間に達すれば、それは数人分の新規採用を抑制できたのと同等の経済効果を示唆します。
  • 機会損失の回避: ベッドコントロールの円滑化により、ベッド回転率を向上させ、年間で何名の新患を多く受け入れられるか(収益増)を予測します。
  • 医療安全の経済価値: 誤薬や転倒転落などの重大インシデントを防止することによる、事後対応コストや訴訟リスクの低減を、過去の統計から期待リターンとして組み込みます。これにより、単なる効率化を超えた「安全への投資」としての側面を強調できます。

 

5. 戦略的重要性と将来性の見極め方

看護DXにおける優先順位決定の際、最も重要となるのが「その施策が病院の未来をどう変えるか」という戦略的な視点です。目先の利便性(短期成果)だけを追い求めると、システムが継ぎ接ぎになり、数年後に大規模な改修が必要になるというリスクを孕んでいます。

短期成果と長期ビジョンの調和

DXの推進には、現場の士気を維持するための「クイックウィン(短期的な成功)」と、組織の根幹を変える「トランスフォーメーション(長期的ビジョン)」のバランスが不可欠です。

  • 短期成果の役割: 例えば、スマートフォンによるバイタルデータの自動転記のような、導入後すぐに「記録時間が減った」と実感できる施策です。これは現場のデジタルに対する不信感を拭い、協力体制を築くための「呼び水」となります。
  • 長期ビジョンの役割: 将来的にAIによる重症化予兆検知や、地域連携パスの完全デジタル化を目指すといった、看護のあり方そのものを変える構想です。

優先順位を付ける際は、「この短期施策は、将来の長期ビジョンに向けたデータ蓄積に寄与するか?」という視点でフィルタリングを行う必要があります。

事業目標との関連付け

看護部門のDXは、病院全体の経営計画や事業目標(KPI)と直結していなければなりません。

  • 病床回転率の向上: 入退院支援プロセスをデジタル化し、多職種間でのベッドコントロール情報をリアルタイム共有することで、空床期間を短縮する。
  • 重症度、医療・看護必要度の精度向上: ケア実績データの自動抽出により、評価漏れを防ぎ、適切な診療報酬算定を担保する。
  • 人材確保と定着: ワークライフバランスを改善するICTツールを導入し、採用市場における病院の魅力を高める。

これら経営へのインパクトが大きい施策は、戦略的重要性が高いと判断されます。

競争優位性からの優先判断

他の医療機関との差別化という観点も、将来性を左右する重要な要素です。

  • 特定認定看護師の活躍支援: デジタルツールを用いた遠隔指示や特定行為の記録支援により、高度な看護実践を組織的に広げ、高度急性期病院としてのブランドを確立する。
  • 患者エンゲージメントの向上: 患者向けのポータルサイトやスマートベッドサイド端末を導入し、患者自身がケアに参加できる環境を提供することで、患者満足度による選ばれる病院を目指す。

6. 実行可能性と組織受容性の分析

戦略的に重要であっても、現場が使いこなせなかったり、技術的に無理があったりする施策は、優先順位を下げるべきです。「できるか・できないか」の冷静な分析が、プロジェクトの座礁を防ぎます。

技術的な導入ハードルの評価

医療現場には、レガシーなシステム(古い電子カルテや部門システム)が数多く残っています。

  • システム間連携(API): 新しく導入するDXツールが、既存の電子カルテとシームレスにデータ連携できるか。手入力による二重管理が発生する場合、実行可能性は著しく低下します。
  • 通信インフラの整備状況: 病院内のWi-Fi死角はないか、医療機器の電波干渉はクリアしているか。インフラ改修が必要な場合、コストと期間が膨れ上がります。

組織文化と従業員の受容レベル

「看護は手で行うもの」という伝統的な価値観が強い組織では、デジタル化に対する心理的な障壁が高くなります。

  • ITリテラシーの格差: 若手からベテランまで、操作スキルに大きな開きがある場合、全員が同じペースで導入することは困難です。
  • 現場リーダーの賛同度: 各病棟の師長や主任が「これは自分たちの仕事に必要だ」と確信しているかどうかが、受容性の決定打となります。

スモールスタートに適した領域

全体展開の前に、特定の部署や特定の機能から始めることで、リスクを最小限に抑えつつノウハウを蓄積します。

  • モデル病棟の選定: 新しい取り組みに前向きなスタッフが多い病棟や、課題が明確な(残業が極端に多い等)病棟を実験場として選びます。
  • 単一機能の先行導入: 「まずはナースコールのスマートフォン受信だけ」「次は物品管理だけ」というように、機能を絞って順次展開します。

7. 多角的評価フレームワークの活用

重要性と実行可能性という、時に相反する要素を客観的に評価し、合意形成を図るために、フレームワークを導入します。

効果と容易性のマトリクス活用

「経営・看護へのインパクト(効果)」を縦軸に、「導入のしやすさ(容易性)」を横軸に取った4象限マトリクスで施策を整理します。

  1. 戦略的優先(効果大・容易): スマートフォン活用による記録の省力化など、真っ先に取り組むべき領域。
  2. 長期計画(効果大・困難): 電子カルテの全面刷新やAI診断支援など、予算と時間をかけて取り組むべき領域。
  3. 改善事項(効果小・容易): 掲示板のデジタル化など、隙間時間で進めるべき領域。
  4. 見送り(効果小・困難): 費用対効果が見合わないため、現時点では着手しない領域。

スコアリングモデル実施事例

マトリクスよりも詳細な判断が必要な場合、各項目に重み付けをして数値化します。

  • 評価項目例: * 残業削減効果(30点)
    • インシデント防止効果(25点)
    • 患者満足度寄与度(15点)
    • 導入コストの低さ(15点)
    • 現場の受容性(15点) これらを各部署の代表者が採点し、合計点が高い順に優先順位を付けます。このプロセス自体が、多職種間での共通認識を深める場となります。

相互依存関係の管理方法

施策単体ではなく、施策同士の「繋がり」を意識する必要があります。

  • 前提条件の把握: 「生体情報モニタのデジタル連携」を行うためには、その前に「院内Wi-Fiの増強」が終わっていなければなりません。
  • 相乗効果の考慮: モバイル端末を導入すれば、後に「薬品照合システム」を導入する際のコストが大幅に下がります。

8. DX推進を支えるガバナンスと評価体系

優先順位が決まった後、それを確実に実行し、検証する体制がなければ、DXは絵に描いた餅に終わります。

病院横断的な推進委員会の組織

看護部だけでなく、医師、事務、情報システム部門を網羅した「DX推進委員会」を設置します。

  • 役割: 各部署からの要望を優先順位に基づいて裁定し、予算を配分する。
  • トップの関与: 院長や理事長がトップに立つことで、部門間の調整を迅速化し、強力な推進力を生み出します。

継続的なKPIモニタリングと改善

導入した施策が当初の狙い通りの効果を出しているか、定期的に評価します。

  • フィードバックループの構築: 半年ごとにKPI(記録時間の推移、インシデント率、離職率など)を測定し、結果が悪ければ運用の見直しやシステムの改修を行います。
  • ベネフィットの可視化: 削減された時間で「患者への指導がこれだけ充実した」といった成功事例を院内報などで共有し、全職種のモチベーションを高めます。

看護DXの優先順位付けは、一度決めて終わりではありません。技術の進化、制度の変更、現場の習熟度に合わせて、定期的にロードマップを「アップデート」し続ける柔軟な姿勢こそが、成功の鍵を握ります。

9. 効果測定と継続的改善のプロセス

看護DXはシステムを導入した瞬間に完了するものではありません。導入はあくまでスタート地点であり、そこから得られるデータを基にいかに現場を最適化し続けるかが、真の価値を左右します。医療現場という常に状況が変化する環境において、固定化された計画に固執するのではなく、動的な改善プロセスを構築することが不可欠です。

KPI監視とフィードバックの活用

優先順位付けの段階で設定したKGI(最終目標)とKPI(重要業績評価指標)は、ダッシュボードなどを活用してリアルタイム、あるいは定期的に監視される必要があります。

  • データの可視化と共有: 例えば、「記録業務の30%削減」を目標とした場合、実際のログデータから入力時間を集計し、グラフ化して病棟内に提示します。数値が可視化されることで、スタッフは自分たちの努力が結果に結びついていることを実感でき、次の改善へのモチベーションとなります。
  • 現場からのフィードバックループ: 数値上の改善が見られても、現場のストレスが増大しているケースがあります。「システム連携はスムーズだが、画面の遷移が多くて疲れる」といった定性的なフィードバックを、定期的なカンファレンスや匿名アンケートを通じて収集します。
  • 逸脱への早期介入: KPIが目標値を下回っている場合、その原因が「操作の不慣れ」なのか「システムのバグ」なのか、あるいは「業務フローとのミスマッチ」なのかを即座に分析し、対策を講じます。

アジャイル推進手法の導入

看護現場の業務は複雑に絡み合っているため、最初から完璧な仕様を固めて導入する「ウォーターフォール型」の開発・導入手法は馴染みません。短期間でのリリースと改善を繰り返す「アジャイル型」のアプローチが有効です。

  • スプリント単位での改善: 2週間から1ヶ月程度の短いサイクル(スプリント)を設定し、「今月はナースコールの振り分け設定を最適化する」「来月はバイタル入力の音声認識を試す」といった小規模な改善を積み重ねます。
  • 現場参加型のプロトタイピング: 開発の初期段階から現場の看護師がモックアップや試作機に触れ、使い勝手を評価する機会を設けます。これにより、大規模導入後の「こんなはずじゃなかった」というミスマッチを最小限に抑えることができます。
  • 柔軟な方向修正: 導入の過程で当初の想定よりも効果が低いと判断された施策については、サンクコスト(埋没費用)に囚われず、サンセット(廃止)や大幅な計画変更を行う勇気も必要です。

成功事例からの学びの共有

ある病棟での成功体験を病院全体、さらには法人全体へ広げていく「ナレッジシェア」の仕組みを構築します。

  • ベストプラクティスの標準化: 「A病棟ではこのアプリを使って申し送りを15分短縮した」という事例があれば、その具体的な運用ルールや活用法をマニュアル化し、他部署へ横展開します。
  • 失敗事例のオープン化: 成功事例以上に価値があるのが「失敗事例」です。導入時に躓いたポイントや、現場の反発を招いた要因を隠さず共有することで、後発のプロジェクトが同じ轍を踏まないようにします。
  • 「デジタル・ナース」のネットワーク化: 各部署でDXを推進するコアメンバー(デジタル・ナーシング・リーダー)が、部署を跨いで情報交換できるプラットフォーム(社内SNSや連絡会)を整備し、組織全体のITリテラシーを底上げします。

10. まとめ: DXの優先順位付けで確実に成果を出すための実践ポイント

看護分野におけるDX推進は、単なる技術導入の是非を問うものではなく、病院の経営基盤と看護の質を再構築するための高度な経営判断です。限られたリソースの中で確実に成果を出し、現場に受け入れられる変革を実現するためには、以下の4つの実践ポイントを常に意識する必要があります。

1. 徹底した「現場の痛み」へのフォーカス

優先順位の最上位に置くべきは、常に「現場の看護師が最も苦痛に感じている業務」の解決です。経営層が望むデータの高度利用も、現場の負担が軽減され、余力が生まれて初めて成立します。足元の業務負荷を軽減する「守りのDX」で信頼を勝ち取り、その先に看護の質を高める「攻めのDX」を位置づけるロードマップを描いてください。

2. 客観的指標による「意思決定の透明化」

なぜその施策が選ばれたのか、なぜ別の施策が後回しになったのか。その根拠を「効果と容易性のマトリクス」や「スコアリングモデル」を用いて可視化することは、多職種連携を円滑にし、予算獲得の説得力を高めます。感情論や声の大きい部署の意見に流されず、データと戦略に基づいた冷徹な優先順位付けを行ってください。

3. 「小さく生んで大きく育てる」柔軟性

最初から全病棟・全機能の同時導入を目指す必要はありません。受容性の高い部署での小規模な成功(スモールウィン)を確実に作り、その成果をエビデンスとして組織内に伝播させていく「段階的展開」を基本戦略としてください。アジャイルな姿勢で現場の声に応え続けることが、システムの形骸化を防ぐ唯一の道です。

4. 経営戦略と看護実践の「ブリッジ」の構築

DXはIT部門だけの仕事でも、看護部だけの仕事でもありません。経営目標(病床稼働率や収益性)と、看護の理想(患者中心のケアや安全性)をデジタルという共通言語で繋ぐ、病院横断的なガバナンス体制を維持し続けてください。

看護DXの真の目的は、看護師をキーボードや画面の前から解放し、患者の隣へと戻すことにあります。正しい優先順位付けによってもたらされる変革は、看護師の笑顔を取り戻し、結果として病院の未来を明るく照らすものとなるはずです。

 

 

  • 株式会社エイ・エヌ・エス 取締役

    システムインテグレーション事業部 第2グループ長 プロジェクトマネージャー

    K.K

    1996年、株式会社エイ・エヌ・エスに入社。
    入社後、SEとしての技術力と営業力を磨き、多くのプロジェクトに参画。
    要件定義から設計・開発、運用まで、上流から下流工程を幅広く経験する。
    現在はプロジェクトマネージャーとして、大規模プロジェクトを数多く成功に導く。
    「システムの導入効果を最大限感じてもらうこと」をモットーに、
    顧客特性に応じた最適なシステム提案を心がけている。



 

 

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