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システム開発の上流工程について

システム開発の上流工程について

公開日:2023年1月11日 更新日:2025年12月9日

◆上流工程について知る― DX時代に求められる「要件定義」と「設計力」 ―

 

システム開発は、要件定義、設計、開発、テスト、運用といった複数の工程を経て完成します。その中でも特に重要とされるのが「上流工程」です。上流工程とは、主に要件定義と設計を指し、システム全体の方向性や品質を決定づける“土台づくり”の工程です。ここを正確かつ丁寧に進められるかどうかが、プロジェクトの成功を大きく左右します。日本では長らく「ウォーターフォール型」開発が主流でした。これは、上流から下流へと滝のように一方向へ進む工程管理手法で、要件定義・設計が完了してから開発・テストへと移行します。要件を明確に定めたうえで進行できる点がメリットですが、途中で要件変更が難しいという課題もあります。一方、近年はアジャイル開発の採用も増加しています。アジャイルでは、小さな単位で開発と検証を繰り返すため、変化の激しいビジネス環境にも柔軟に対応できます。ただし、アジャイル型であっても、初期段階で明確なビジョンや要件整理ができていなければ、開発が迷走するリスクがあります。つまり、開発手法の違いに関わらず、上流工程の重要性は変わらないのです。

 

上流工程では、まず顧客の抱える課題や目的をヒアリングし、「何を実現したいのか」「どのような業務を効率化したいのか」を整理します。これが要件定義の段階です。システムに必要な機能・性能・運用条件などを具体的に定義し、関係者間で合意を形成します。曖昧な点を残したまま進めると、後工程で手戻りやトラブルが発生し、納期遅延やコスト増につながるため、要件定義は「失敗を防ぐ最初の防波堤」とも言えます。次に行うのが設計工程です。要件定義で整理した内容をもとに、システム全体の構造や処理の流れ、データの扱い方などを設計します。設計には「基本設計」と「詳細設計」があり、基本設計ではシステム全体の構成を決め、詳細設計では実際のプログラミングやテストを行うための具体的な仕様を作成します。この段階で設計の抜け漏れがあると、開発後に不具合が多発する原因となります。

 

さらに2025年現在、上流工程に求められる役割は大きく変化しています。
企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で、単に「業務をシステム化する」だけでなく、「業務そのものを見直す」視点が不可欠になりました。AI・クラウド・RPAなどの新技術を前提にしたシステム設計が求められ、システムエンジニアには技術だけでなく業務理解力と提案力が強く求められています。また、クラウド環境(AWS、Azure、Google Cloudなど)での構築が主流になった今、セキュリティ・コスト・拡張性を考慮した設計が不可欠です。さらに、企業の内製化ニーズの高まりにより、ユーザー企業と開発ベンダーが協働しながら進める「共創型プロジェクト」も増えています。これに伴い、上流工程では技術だけでなく、コミュニケーション力・合意形成力・マネジメント力も重視されるようになっています。要件定義と設計を丁寧に行うことは、開発の効率化だけでなく、システムの長期的な安定稼働にも直結します。上流工程は単なる準備段階ではなく、「企業のビジネスを支える戦略的フェーズ」と言えるでしょう。

 

 

◆上流工程に必要なスキルとは?― DX時代に求められる“要件定義力”と“共創力” ―

システム開発における「上流工程」は、プロジェクト全体の品質と成功を左右する重要な工程です。ここでいう上流工程とは、主に要件定義や設計といった、システム開発の初期段階を指します。この段階での判断や整理が不十分であれば、下流工程(開発・テスト・運用)に重大な影響を及ぼします。
実際、上流工程での要件漏れや仕様の曖昧さが原因で、開発後に大幅な修正が発生し、納期の遅延やコスト増加につながるケースは少なくありません。したがって、上流工程には技術力だけでなく、ビジネス視点とコミュニケーション力を兼ね備えたエンジニアが求められています。技術力に加えて、顧客の思考を読み取り、経営戦略をシステムで支える発想が不可欠です。要件を“正確に聞き取る”のではなく、“本質的な課題を引き出し、あるべき姿を描く”力が求められます。上流工程をどれだけ丁寧に、かつ戦略的に進められるか。それが、DX時代のシステム開発において、最も大きな成功要因となっているのです。

 

では、2025年現在のシステム開発において、どのようなスキルが上流工程で重要視されているのでしょうか。代表的な3つのスキルを軸に、近年の変化を踏まえて解説します。

 

1. ヒアリングスキル ― 顧客課題を「言語化」する力

上流工程の第一歩は、顧客とのヒアリングです。
要件定義を行ううえで欠かせないのが、「顧客の本当の課題を引き出す力」。顧客自身が明確に言語化できていないニーズを掘り起こし、システムでどのように解決できるかを整理する必要があります。たとえば、「業務効率を上げたい」「生産性を改善したい」といった抽象的な要望はよくありますが、実際には“どの業務がボトルネックなのか”“どの作業を自動化すべきか”といった深掘りが必要です。ここで重要なのが、傾聴力・質問力・要約力の3点です。単に話を聞くだけでなく、顧客の業務背景を理解し、潜在的な課題を言語化できるかどうかが成否を分けます。2025年現在では、生成AIツールを活用した要件整理も進化しています。ヒアリング内容をAIに要約させ、論点整理や課題分類に活用するケースも増えました。しかし、最終的な判断はあくまで人間による「共感的理解」と「業務知識」が欠かせません。AIを補助ツールとして活用しつつ、顧客の意図を正しく汲み取る力が、ヒアリングスキルの本質といえます。

 

さらに、ヒアリングは単なる情報収集の場ではなく、「信頼関係の構築プロセス」でもあります。初回の打ち合わせで顧客が安心して本音を話せるかどうかは、プロジェクトの成否を大きく左右します。たとえば、顧客が抱える“言いづらい課題”や“組織内の矛盾”など、表面化していない問題を丁寧に引き出すには、誠実な態度と中立的な視点が欠かせません。また、顧客が求めるのは単なる「聞き役」ではなく、「理解して提案してくれるパートナー」です。そのため、ヒアリングの中で課題を再定義し、「もしこの業務を自動化できれば〇〇時間の削減につながります」といった具体的な効果を提示できると、顧客の信頼を得やすくなります。さらに、オンライン会議が主流となった今、ヒアリングの進め方にも変化が見られます。対面で得られていた“空気感”や“相手の反応”が掴みにくいため、事前に質問項目を共有したうえで、会話の流れを可視化する工夫が重要です。加えて、議事録作成や要件整理にAIツールを取り入れることで、ヒアリング後のドキュメント精度を高める企業も増えています。とはいえ、最も重要なのは「顧客の言葉を鵜呑みにせず、真の目的を見抜く姿勢」です。

 

つまり、ヒアリングとは“技術的スキル”と“人間的理解力”の両輪で成り立つ工程です。ビジネス構造を把握し、顧客の業務を自分の言葉で説明できるレベルまで理解することが、優れた上流エンジニアの条件といえるでしょう。

 

2. 調整スキル ― ビジネス要件と技術要件をつなぐ橋渡し

上流工程では、予算・納期・品質といったビジネス上の制約条件を踏まえながら、最適なシステムを設計する必要があります。顧客との調整業務は単なるスケジュール管理ではなく、「技術と経営をつなぐ通訳」のような役割を担います。例えば、最新のクラウドサービスやAI機能を導入する場合でも、コストや運用体制とのバランスを考慮する必要があります。上流工程の担当者は、「理想論」と「現実的な実現性」の間で最適解を見いだすスキルが求められます。さらに、社内外のステークホルダーが増える近年では、複数部門間の利害調整も重要な業務のひとつです。営業・開発・インフラ・経理など、異なる立場の関係者と合意形成を図るには、交渉力と説明力が欠かせません。単に「技術的にできる・できない」を伝えるだけではなく、「なぜその方法が最も効果的なのか」「リスクをどのように回避できるのか」をビジネス視点で説明する力が求められます。このように、上流工程のエンジニアには“技術者でありながら経営の一端を担う存在”としての意識が不可欠です。

 

また、2025年のトレンドとして、「共創型開発」が広がっています。これは、ベンダーとユーザー企業が対等な立場で一緒にシステムを作り上げるスタイルです。従来の「発注者と受注者」という構図ではなく、共に価値を生み出す関係性が重視されるため、上流工程におけるファシリテーション力や柔軟なコミュニケーションがこれまで以上に求められています。共創型開発では、顧客自身がプロジェクトメンバーの一員として参画し、要件の検討や機能設計に主体的に関与します。そのため、開発ベンダー側には「議論をリードし、意思決定を支援する」姿勢が必要になります。

 

さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴い、上流工程は“システムを作る”だけでなく、“ビジネスを変革する”視点が求められるようになりました。単なる要件整理ではなく、「顧客の業務プロセスをどう再設計するか」「どのようにデータを活用し、経営効果を最大化するか」といった、経営課題に直結する提案力が鍵となります。つまり、上流工程はもはや技術の領域を超え、企業の未来を共に描く戦略的フェーズへと進化しているのです。

 

3. 設計スキル ― 将来を見据えた“拡張性”ある設計力

上流工程の設計スキルとは、単にシステム構成を描くだけではありません。
要件定義で整理した内容を踏まえ、システムを「実際に動作させるための設計」に落とし込むスキルです。基本設計・詳細設計・インフラ設計など、複数の観点を統合して最適なアーキテクチャを描く能力が求められます。設計者は、業務要件をシステム構造へと翻訳する“設計の通訳者”としての役割を担い、ビジネス課題を技術的な解決策に変換する力が欠かせません。特に2025年現在では、クラウド環境(AWS、Azure、Google Cloudなど)を前提としたシステム構築が主流となっています。クラウドの選定やマルチクラウド構成、セキュリティ設計、データ連携など、専門性の高い判断が求められます。また、生成AIや機械学習モデルを業務システムに統合するケースも増えており、AIの活用方針を設計段階で考慮する力も必要です。たとえば、AIモデルの更新頻度やデータ品質の担保、倫理的配慮といった観点も設計フェーズに含める必要があります。さらに、保守・運用のしやすさを考えた設計も重要な視点です。近年はシステムのライフサイクルが短くなり、数年ごとに再構築を検討する企業も珍しくありません。将来の拡張性や他システムとの連携性を考慮し、変更に強い柔軟な設計を行うことが、長期的なコスト削減と安定運用につながります。これを実現するには、「技術的な最適化」だけでなく「運用者の視点」も欠かせません。実際の運用担当者がメンテナンスしやすい構成や、障害時に迅速に対応できる設計思想を持つことが重要です。

 

また、マイクロサービスやAPI連携の活用が進む現在では、システム全体をひとつの大規模構造として設計するのではなく、「分割して組み合わせる」発想が主流になっています。各機能を独立して更新・改修できるようにすることで、変化する市場や業務要件にも柔軟に対応できる設計が可能になります。つまり、現代の設計スキルは、“作る”だけでなく、“変化に強い仕組みを構築する力”へと進化しているのです。

 

 

◆DX時代の上流工程に求められる新たなスキルセット

かつては「要件を聞いて、それを正確に作る」ことがエンジニアの役割とされていました。
しかし2025年現在、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で、単に業務をシステム化するだけでは不十分です。今やシステム開発は、「業務そのものを再設計し、企業価値を高める」ための手段へと変化しています。

たとえば、製造業ではIoTによる稼働データの可視化、物流業ではAIによる需要予測、小売業では顧客データの分析を基にしたパーソナライズ化など、システムが経営戦略の中核に位置づけられています。
このようなプロジェクトでは、上流工程に携わるエンジニアが、業務知識・データ活用・経営視点を持って要件を整理する必要があります。

さらに、クラウドサービス(AWS、Azure、Google Cloudなど)の活用が主流となった今、設計段階で以下のような観点が欠かせません。

 




 

コスト最適化、セキュリティ設計、可用性・拡張性、運用自動化 — それぞれの目的・主な対策・実装例・期待効果を一覧にし、導入優先度(または成熟度目安)を視覚化しました。

各領域の詳細

領域 コスト最適化
目的:クラウドコストの最小化と効率化

  • 主な対策:自動スケール、スポット/リザーブ活用、課金アラート
  • 実装例:Auto Scaling、KubernetesのHorizontal Pod Autoscaler、スケジュール停止
  • 期待効果:未使用リソース低減・月額コスト削減
セキュリティ設計 ゼロトラスト / 権限分離 / 暗号化
目的:侵害リスクの低減と内部不正対策

  • 主な対策:IDベースのアクセス制御、最小権限、ネットワーク分離
  • 実装例:IAMロール、MFA、KMSによるデータ暗号化
  • 期待効果:侵害被害の局所化・コンプライアンス対応強化
可用性・拡張性 冗長化 / マルチリージョン
目的:サービス停止リスクの低減と負荷対応

  • 主な対策:複数AZ/リージョン配置、DBレプリケーション、フェイルオーバー設計
  • 実装例:ロードバランサ+Auto Scaling、マルチマスターDB、CDN導入
  • 期待効果:RTO/RPOの改善、トラフィック急増時の安定性確保
運用自動化 IaC・CI/CD・監視連携
目的:ヒューマンエラー削減と迅速なデリバリ

  • 主な対策:インフラはコードで管理、パイプライン自動化、アラート→自動復旧
  • 実装例:Terraform/CloudFormation、GitHub Actions/Jenkins、Prometheus+Alertmanager
  • 期待効果:デプロイ頻度向上・復旧時間短縮
注:実際の優先度や実装パターンは組織のリスク許容度・コスト構造・SLA要件に依存します。

導入優先度 / 成熟度(目安)

コスト最適化75%
セキュリティ設計90%
90%
可用性・拡張性85%
85%
運用自動化80%
80%

数値はあくまで例です。プロジェクトのフェーズ(PoC / 本番)や予算、SLAに合わせて調整してください。

 

 共創型プロジェクトの増加と“コミュニケーション力”の重要性

また、企業の「内製化」や「共同開発」ニーズが高まっている今、上流工程では技術力だけでなく、コミュニケーション力や合意形成力、マネジメント力も求められています。
ユーザー企業と開発ベンダーが対等な立場でアイデアを出し合い、最適なシステム像を共に描いていく。こうした“共創型プロジェクト”が主流になりつつあります。

 

そのため、上流工程担当者には「翻訳者」のような役割が期待されます。
ビジネスの言葉を技術に変換し、技術的な制約をビジネス視点で説明する。双方の立場を理解しながらプロジェクトを推進できる人材こそ、DX時代における真の上流エンジニアといえるでしょう。

 

 

◆基幹システム開発・導入支援はエイ・エヌ・エスへ

 

株式会社エイ・エヌ・エスは、オーダーメイドの基幹システム開発を主軸に、創業35年以上にわたり多様な業界・業種のシステム開発に携わってきました。
スクラッチ開発による柔軟なカスタマイズ対応に加え、既存システムの再構築や運用支援、保守引継ぎサービスなど、上流から下流まで一貫した体制で企業のIT基盤を支えています。

 

IT-Trust:オーダーメイドのシステム導入で企業のDX推進を支援
https://www.ans-net.co.jp/

 

システム再構築サービス:業務時間を削減し、生産性向上を実現
https://www.ans-net.co.jp/lp/rebuilding/

 

保守引継ぎサービス:最短1ヵ月で“任せられる”保守体制へ
https://www.ans-net.co.jp/lp/maintenance/

 

IT相談サービス:システム・IT課題を無料で相談可能
https://www.ans-net.co.jp/it-advice/

 

内製化支援サービス:社内開発体制の立ち上げを支援し、持続的なDXを実現
https://www.ans-net.co.jp/lp/insourcing/

 

エイ・エヌ・エスは、上流工程の確実な支援を通じて、企業のIT資産を未来へつなぐパートナーとして伴走いたします。
検討段階でも、ぜひお気軽にご相談ください。

 

 

 

 

  • 株式会社エイ・エヌ・エス 取締役

    システムインテグレーション事業部 第2グループ長 プロジェクトマネージャー

    K.K

    1996年、株式会社エイ・エヌ・エスに入社。
    入社後、SEとしての技術力と営業力を磨き、多くのプロジェクトに参画。
    要件定義から設計・開発、運用まで、上流から下流工程を幅広く経験する。
    現在はプロジェクトマネージャーとして、大規模プロジェクトを数多く成功に導く。
    「システムの導入効果を最大限感じてもらうこと」をモットーに、
    顧客特性に応じた最適なシステム提案を心がけている。




 

お客様の業界・課題に合った事例や支援内容も個別にご提案可能です。
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