
システム開発の工程と期間 効率的なプロジェクト運営のポイント

新たにシステムを導入する際、多くの企業は専門の開発会社に外注を検討します。「難しいシステムではないから簡単にできるはず」「できるだけ早く運用を開始したい」といった事情や要望は様々です。しかし、システム開発には決められた工程を順序立てて進めることが成功の鍵となります。日常生活で例えると、旅行の計画と同じです。行き先を決め、持ち物や交通手段を準備し、スケジュールを組むことでスムーズに楽しめます。システム開発も工程を整理し段階的に進めることで、効率的かつ高品質な成果を実現できます。
システム開発の手法には大きく分けてウォーターフォール開発とアジャイル開発の二種類があります。
◆システム開発手法
・ウォーターフォール開発
この手法は、開発工程の順序を明確にし、それぞれの段階で成果物を確実に作成しながら次の工程に進むことを基本としています。具体的には、要件定義、基本設計、詳細設計、実装、テスト、運用といった工程に分かれており、各工程は順序どおりに進められることが原則です。
まず、ウォーターフォール開発の最初の工程である要件定義は、システムに求められる機能や性能、運用条件などを明確にし、ドキュメントとしてまとめる段階です。この工程が正確であるほど、後続の工程での設計や実装の精度も高まります。次に基本設計では、要件定義をもとにシステム全体の構造や機能の概要を設計します。ここではシステムの構成やデータの流れ、外部とのインターフェースなどを設計し、システム全体像を固めます。その後、詳細設計に進み、各機能やモジュール単位で具体的な仕様を定め、プログラムを実装する準備を整えます。詳細設計書は、プログラマーが実装作業を行う際の指針となります。
実装工程では、設計書に従ってプログラムを作成し、実際に動作するシステムを構築します。その後、テスト工程で作成したシステムが要件どおりに動作するかを確認します。テストには単体テスト、結合テスト、総合テストなどがあり、バグや仕様の不一致を検出し修正します。最後に運用工程では、完成したシステムを実際の業務環境に導入し、安定稼働させます。この段階でユーザーによる操作や実務での活用が行われ、必要に応じて保守や改善が続きます。
ウォーターフォール開発の大きな特徴は、工程が明確であることと、文書による管理が重視される点です。各工程の成果物が次の工程の基準となるため、進捗管理や品質管理が比較的容易であり、大規模プロジェクトや官公庁、金融システムなど変更が少ない案件に適しています。一方で、要件変更や追加に柔軟に対応しにくいというデメリットもあります。上流工程での設計ミスや仕様の誤解が後工程に大きく影響するため、初期段階での正確な要件把握が非常に重要です。また、ユーザーが完成品を確認できるのは開発の後半であるため、早期にフィードバックを得ることが難しいという点も課題です。
総じて、ウォーターフォール開発は、計画的で管理しやすい手法であり、要件が明確で変更が少ないプロジェクトでは非常に有効です。しかし、変化の多い環境やユーザー要望の変動が激しい場合には、後戻りが発生しやすく、適用が難しいこともあります。そのため、プロジェクトの性質や規模、要求の確定度合いに応じて、ウォーターフォール開発を選択するか、より柔軟なアジャイル開発などの手法を検討することが重要です。ウォーターフォール開発を適切に運用するためには、初期の要件定義と設計段階での精度を高め、文書化と工程管理を徹底することが成功の鍵となります。
・アジャイル開発
アジャイル開発は、ソフトウェア開発における手法の一つで、変化する要件や顧客のニーズに柔軟に対応しながら進めることを特徴としています。従来のウォーターフォール型のように工程を順序立てて一方向に進めるのではなく、短い期間ごとに計画・設計・実装・テストを繰り返す反復型の開発プロセスを採用します。これにより、ユーザーからのフィードバックを早期に取り入れ、開発途中でもシステムの仕様や機能を改善することが可能です。アジャイル開発の基本理念は、顧客とのコミュニケーションを重視し、柔軟性を確保しながら価値の高いソフトウェアを迅速に提供することにあります。
アジャイル開発の代表的な手法としては、スクラムやカンバンなどがあります。スクラムは、開発チームが一定期間(スプリントと呼ばれる2~4週間程度)で実施するタスクを計画し、スプリントごとに成果物をレビューする方式です。各スプリントの終了時には、動作するソフトウェアをユーザーに提示し、必要な改善点を反映させます。このサイクルを繰り返すことで、段階的にシステムの完成度を高めることができます。カンバンは、タスクを「やること」「進行中」「完了」といった状態に分け、視覚的に管理しながら進める手法で、作業の優先順位や進捗状況をチーム全体で共有しやすい点が特徴です。
アジャイル開発の大きな特徴の一つは、短期間での反復的な開発です。従来のウォーターフォール型では、システム完成までユーザーが完成品を見ることはできませんが、アジャイルでは数週間ごとに動作するソフトウェアを提供できるため、ユーザーは早い段階から機能を確認し、フィードバックを出すことができます。これにより、要求の変更や機能追加にも柔軟に対応でき、最終的にユーザーが求める価値の高いシステムを開発することが可能です。また、チーム内でのコミュニケーションも重視され、毎日の短いミーティングやスプリントレビューを通じて、開発の進捗や課題を迅速に共有する文化が根付いています。
さらに、アジャイル開発ではドキュメントよりも動くソフトウェアを重視するという考え方があります。必要最低限の文書は作成しますが、過剰な設計書や仕様書に時間をかけるのではなく、実際に動くシステムを通じて課題や改善点を明らかにすることを優先します。これにより、短期間で価値を提供しつつ、変更への柔軟な対応が可能になります。ただし、この特性は開発チームの経験やコミュニケーション能力に大きく依存するため、チームの成熟度が低い場合には混乱や仕様のブレが生じやすいという課題もあります。
アジャイル開発のメリットとしては、ユーザーの要求に迅速に対応できること、リリースごとに価値を提供できること、チーム間のコミュニケーションが活発になり開発の透明性が高まることなどが挙げられます。一方で、プロジェクト全体のスケジュールやコストが見えにくいこと、経験不足のチームでは進捗管理が難しいこと、ドキュメントが少ないため運用や保守での引き継ぎが課題となることもあります。そのため、アジャイル開発を導入する場合には、チームのスキルやプロジェクトの性質を考慮し、適切な手法と管理方法を選択することが重要です。
総じて、アジャイル開発は変化が激しい環境やユーザー要望が頻繁に変わるプロジェクトに向いており、ユーザーとの協力関係を重視しながら、短期間で価値を提供する柔軟な開発手法です。ウォーターフォール型と比較してリスク管理や工程管理の方法が異なるため、プロジェクトの性質に応じて最適な手法を選択することが成功の鍵となります。
◆開発工程と期間

ウォーターフォール開発を例に、主要な工程と期間について整理します。
要件定義(2週間〜2ヶ月)
システム開発の出発点です。現状の業務課題を整理し、どんな機能が必要か、どんな業務を効率化したいのかを明確化します。
クライアントと開発会社が協議を重ね、「何を」「どの範囲で」「いつまでに」実現するかを文書化します。ここでの認識齟齬が後々のトラブルを招くため、打合せを重ね、要件を確定させることが重要です。
特に基幹システムや複数部門が関わる案件では、関係者間での合意形成に時間を要することがあります。週1〜2回の定例会議を設定し、段階的に決定していくのが現実的です。
基本設計・詳細設計(1〜3ヶ月)
要件定義をもとに、システム全体の構造や画面設計、データベース設計を行います。
画面遷移図やER図、業務フローなど、開発の基盤となるドキュメントを整備し、ユーザー操作性(UI/UX)もこの段階で検討します。
小規模システムなら1ヶ月未満で完了することもありますが、複数機能を持つ業務システムでは数ヶ月を要します。設計段階で曖昧な部分を残すと、開発中に手戻りが発生し、全体のスケジュールが延びるリスクが高まります。
開発(プログラミング)(1〜6ヶ月)
設計書を基に、実際のプログラムを構築します。開発の期間は規模や機能数に比例し、工数配分によっても大きく変動します。
近年では、フレームワークやノーコードツールを活用することで一部の開発を短縮するケースもありますが、業務に密着したオーダーメイド開発では、依然として丁寧なコーディングと検証が求められます。
また、開発期間中も随時クライアントとのレビューを行うことで、仕様変更や認識ズレの早期発見が可能になります。
テスト工程(1〜2ヶ月)
単体テスト、結合テスト、総合テスト、ユーザーテストなど複数段階に分けて検証を行います。テストは単なる確認作業ではなく、品質保証の要です。設計書どおり動作するか、想定外のデータ入力でも破綻しないかを徹底的に検証します。
大規模システムでは、全体工程の20〜30%をテスト期間に充てることもあり、ここでの検証精度が運用後の安定性を左右します。
導入・リリース(数日〜数週間)
テストをクリアしたシステムを本番環境へ移行します。
リリース作業では、データ移行・マスタ登録・利用者教育などが行われます。
クラウド環境を利用する場合は移行リスクが少ないものの、オンプレミスでは一時的な業務停止が必要になる場合もあります。導入前のリハーサル実施が効果的です。
運用・保守(リリース後〜継続)
運用開始後は、システムの安定稼働を支えるフェーズに移ります。
軽微な修正対応や問合せ対応に加え、将来的な機能拡張や法改正対応なども視野に入れた長期サポート体制が必要です。
リリースして終わりではなく、「運用して改善する」意識が、システム価値を長く維持する鍵となります。
◆システム開発にかかる期間の目安
システム開発期間は、機能数・規模・技術要件によって変動します。以下は一般的な目安です。

この期間には、要件定義・設計・開発・テスト・導入の全工程が含まれます。
特に、クライアント側の決裁スピードや仕様変更の有無が、期間に大きく影響します。短納期を優先しすぎると品質リスクが高まるため、重要なのは「現実的な期間の設定」です。
◆開発期間に影響する要素
システム開発の期間は以下の要素で変動します。
・システムの規模
機能数が多いほど期間は長く、少なければ短くなります。売上管理・在庫管理・購買管理・顧客管理を網羅するシステムは、在庫管理のみのシステムよりも開発期間が長くなります。
・プロジェクトの工数
開発に参加する人数や担当者のスキルにより期間は前後します。経験豊富なメンバーをアサインすることで期間短縮が可能です。
・開発難易度
新技術の採用や既存フローがない場合、開発難易度は上がり期間が延びます。開発会社の得意分野であれば効率的に進められますが、不得意分野の場合は余裕を持ったスケジュール設定が必要です。
・クライアント側の判断
特に要件定義では、クライアントの意思決定のスピードが期間に直結します。週1~2回の打合せでも要件が固まらず、予定より時間がかかるケースがあります。
システム規模や機能の複雑さ、開発人数やスキルの差、クライアント側の意思決定のスピード、開発会社の得意分野や技術経験などといった要素が組み合わさることで、同じようなシステムでも開発期間に差が生じます。
◆システム開発のコツ
システム開発では、「想定より時間がかかった」という事例が少なくありません。
その多くは、当初のスケジュールに余裕がなく、要件変更や仕様調整の影響を吸収できなかったことに起因します。
次の3点を意識するだけでも、プロジェクトの安定性は大きく向上します。
・ 要件定義を丁寧に行う
開発初期に仕様を曖昧なまま進めると、後の手戻りが発生します。
「決めるべきこと」「後から決めても良いこと」を明確に切り分けましょう。
・定期的なレビューを設定する
開発中に定例会を設け、進捗と課題を共有します。クライアントと開発会社が同じゴールを意識して進めることで、ズレを最小化できます。
・段階的なリリースを検討する
機能を段階的に公開する「スモールスタート」は、短期間で成果を確認でき、リスク分散にも効果的です。
◆システム開発は慎重に計画する

システム開発は工程を段階的に区切り、要件や設計を明確にすることで、効率的かつ高品質な成果を実現できます。期間の見積もりには、システム規模・工数・難易度・クライアント側の判断速度などを考慮し、余裕を持ったスケジュール設定が重要です。
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